恋の小説を書いてみました。
書きながら、一緒に考え、成長できたら・・と。
不定期になりますが、連載したいと思います。
読んでくださった方が、ちょっと甘酸っぱく
ほろ苦く・・・恋について、パートナーシップについて
心に小さな波を感じて下さったら幸いです。
〜 Chocolate Avenue V 〜 ≪ 過去 ≫
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・彼の章・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
(今さら会ってどうする・・・?)
人身事故で止まってしまったJRを降り、
タクシーで新橋へと急いでいるときに、
見覚えのない番号からコール。
とっさにクライアントか、とあわてて出ると
「私・・・。帰国した・・。」
思いがけない『せりふ』が聞こえてきた。
一瞬、世界が止まった.
けれど、反射的に
「折り返します。」と電話を切っていた。
突然とはいえ、それはあまりにもなじんだ声だった。
あれから何年になるだろう。
大学3年の夏から始まって、6年後に終わった恋。
大学院を出て、意気揚々IT業界に就職した僕は、
若さ特有の傲慢なまでの自信に満ちていたし、
彼女とも上手くやっていけるはずだった。
ところが、就職して1年ほどたった頃、
仕事の様相が尋常でないスケジュールになり、
体調の不良と共に、様々な歯車が狂い始めた。
中高とサッカーで鍛えた屈強な身体という自負があった分、
通院と休養を宣告された時には、ショックと情けなさで
頭の中が真っ白になった。
次第に弱気になっていく僕に、彼女はただ、困ったように
「頑張って・・・」と言い続けた。
僕は、彼女が「頑張って」という言葉を発する度に
どんどん孤独になっていった。
「頑張れないから、だめになってるんじゃないか・・・。
どう頑張ればいいんだよ。」
なんとか心の叫びで留めていたその気持ちを、
ある日、やけに明るく振舞う彼女にぶつけてしまってから、
まともに顔を見れないような関係になった。
それでも、しばらくは彼女の方が歩み寄ろうとしてくれていたが
わずかに残っていた僕のプライドが、彼女を拒み始めていた。
その年の夏、僕は会社を辞めた。
そして、ほぼ同時に彼女から別れを告げられた。
あの日のことはよく覚えている。
すがる思いで訪れたカウンセラーに、意外にも
ずたずたに自信を破壊され、挙句の果てに
「自分が頑張るしかないんじゃないの」と彼女と同じ事を言われた。
今思えば 最低の、いや、その肩書きを語ってははいけないようなヤツだった。
その帰り道、歩くチカラもなく、駅前の喫茶店で氷の解けたアイスコーヒーを前に、ただ宙を見つめて座っていた時だった。
どうしてそこがわかったのか・・・
彼女は優しい笑顔で現れて僕の前に座ると、
「ちょっとやせたみたい、大丈夫?
・・・いろいろ考えたんだけど、私、もう何の役にも立てないと思う。
私も、このままじゃ、中途半端だし・・・。
もう、やめよ・・・と思う。ごめん。
元気になって、頑張って・・」
それだけ言うと、自分に区切りをつけるように大きくタメイキをつき
席を立って、出て行った。
また、「頑張って。」か・・・。
恋人に別れを告げられた寂しさよりも
その時の僕には 「頑張って」があまりにも腹立たしくて、
ほかの感情が生まれてこなかった。
彼女がどんなに苦しんだ結果か、などと思う余裕は少しも無かった。
こうして悲しいプライドと幼い思いやりの果てに、蒼い恋愛は終わった。
1年ほどして、なんとか体調も回復し、先輩の誘いで今の会社に入社した。
まもなく、彼女が結婚してカナダへ行った、と人づてに聞いた。
あれから5年も経っている。
今さら、会ってどうする?
自分には、今、守ってあげたい人がいる。
しかし、ただ懐かしくてかけてきたと言うわけではないだろう。
折り返す、と言ったのだから、一度はかけるべきか・・・
夕方、仕事の連絡を終えた携帯をぎゅっと握り、
そのまましまわずに、自分自身についでを装ってかけてみた。
「元気になったのね・・本当によかった。」
という彼女の声は、どこか寂しげで、はかなげに聞こえた。
それから、僕は、今の仕事や友人たちの近況を簡単に話した。
「いろいろあって・・・」
彼女は帰国の理由をそう言って、黙ってしまった。
「会おうか。」・・・簡単には出せない言葉が、頭の中で回っていた。
しかし、今さら会ってどうする?
「いつまでいるの?」
「・・・まだ決めてない。」
答えを先延ばしにしたような、後味の悪い事を聞いてしまった。
会おう、とも 会うのはやめておこう、とも言えずに
「そうか、じゃ、また。 いろいろあるんだろうけど、頑張れよ。」
そう言って、電話を切った。
・・頑張れよ?
自分の言った5文字が、不思議な言葉となって
響きだした。
頑張れよって・・・。 何てこと言ってるんだ。
あの時あれだけ腹が立った言葉を、今、つらそうな人にむかって
自分も言ってしまった。

彼女は気づいていただろうか。
あの頃、僕が何気ないその言葉に
どれだけ参っていたか。
そして、今、彼女は、
あの時の僕と同じ孤独を
味わったのだろうか?
同時に、「本当に頑張れないとと思ったら、何を辞めてもいいんだよ。」
数日前、自分をさらけ出して泣いていた早紀には、
そう言えたことを思い出した。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・彼女の章・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
しんどい状況を彼に投げ出してから、ずいぶん気が楽になっている。
今日は7時からの打ち合わせが、上司の都合でキャンセル・・・
母の所にいける、と一瞬思ったけれど、
少し小康状態の母は病院に任せて、久しぶりに映画でも見ようかな・・、
彼は忙しいだろうから 一人で行くのも悪くない。
・・・そんなことを思ったときに、彼からメールが入った。
「早紀、体調は大丈夫? 溝口に行く日だったかな?
もし いかないのだったら、遅くてもちょっと会えないかな?」
珍しい。
約束以外に彼がこういうことを言ってくるなんて、あまりなかった。。
「何かあった?」・・・逆に心配になる。
「何もないよ。なんとなくね、顔が見たい。」
顔が見たい?
『会いたい』よりもその言葉が気持ちにささった。
そして私も、彼の優しい笑顔が見たい、と心から思った。
でも、何故? やっぱりちょっと不思議な感じは消えなかったけれど
素直に喜んで、会いに行こう。
待ち合わせをした表参道を歩きながら、弾んでいる自分に気づく。
そしてこういう気持が、女性にはとても大事だなと心地よさを感じる。
確かに仕事にやりがいを感じ、恋はスパイスでいい、なんて
本気で思っていたけれど、社会に出て7年たった今、
自分の中でぴったりくるバランスが微妙に変わってきている。
人間も所詮は動物・・・つがいで生きるのが自然かな。
そう思ったとたん 突然『結婚』が、イメージできた。
生まれて初めて。
これまでの恋愛は、学生時代も新卒の頃も
どれも結婚に結びつくような感覚をもてなかった。
何しろ仕事がしたかった私は、結婚という未知のものに
憧れや期待よりも 不安と厄介さを持っていたのかもしれない。
本気で好きだったとは思えるけれど
過去の恋は 自分が未熟すぎて何も見えていなかった。
プライドが邪魔をしたし、相手に求めるだけの幼い恋だった。
昔の恋がちょっと懐かしく、ほろ苦く思えるほど
時間が経ったということかな・・・。
今度の恋で、やっと大人の恋の仲間入り。

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜二人の章・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
この前会ってからまだ1週間もたっていないのに
今日の彼は、顔が変わったと早紀は思った。
(優しさが増して私を包み込むような笑顔・・何か言いたいことがある?)
「どうしたの? 珍しいからびっくりしちゃった。
でも嬉しかったけど。」
「うん。別に理由はないんだけどさ。急に顔が見たくなった。
そんなに変かな?」
「変じゃないわ。嬉しかったけど、なんか違う感じがしたから・・・。」
貴之は今日の出来事を早紀に話すべきかどうか、迷っていた。
5年前に終わった恋の話、5年ぶりにかかってきた電話。
会うつもりはないこと。
嘘だとか隠すとか、そんなつもりはないのに、
急に誘った理由を聞かれて「別に理由はないよ、」と答えたことで
言い出しにくくなってしまった。
そして、もうひとつ、5年前の病気のことを今まで早紀に話していない。
今いろいろ抱えている彼女に、雑音を入れることにためらいも感じていた。
早紀は、ここ数日のこと、母親の状態、見ようと思っていた映画の話を
屈託なく、あるいはいつもより多少エネルギーを上げて・・話し続けていた。
間があくと、なんとなく貴之に話をさせる順番を渡してしまいそうで
無意識にそれを避けていた。
どことなくいつもと違う彼の雰囲気に、話をふってはいけない気持ちに
なっていたのだ。
そのまま、結局は何も話せず、何も聞けず、けれど離れがたくて
帰り道送っていったまま、早紀の家に初めて泊まった。
明け方、着替えに帰らなくては、と早紀は貴之を起こした。
あまり寝ていない二人は、どこか絆が深まったような
そうでないような・・・ささやかな不安が漂う空間を共有していた。
けれど、どこか大丈夫だという信頼を二人とも感じていた。
「ありがとう。あまり寝なかったけど、ごめんね。」
「大丈夫よ。一緒にいられて嬉しかった。
なんか・・・こういうのいいなって思った。」
「そう? 早紀、ずっと一緒にやっていこうね。」
「うん。貴之とは別れなくてもいい関係でいたい。」
「僕も同じだよ。」
結婚と言う言葉より自然に、ずっと一緒にやっていく、と言ったことで
貴之は大切な意志が自分の中に確かにあると思った。
(思いやりを履き違えては、また昔と同じことになる。
大切なのは早紀を煩わせないことではなくて
正直に対等に向き合うことだろう。
自分といても幸せになれない、とか
迷惑をかける、などというのは
相手を心底信頼していないから思うのだ。
人は自分で幸せになる力がある。
自分は早紀を心配することが迷惑だなんて思っているか?
自分の正直な心の奥をみることと
そこにどんなことがあったとしても、自分はそれを否定しない。
そして、愛する人にゆっくり、ありのままに伝えよう。
今日伝えられなかった顛末を、そのまま次に伝えればいい。
この人と人生を分かち合うと心が言っているのだから。)
マンションから出て坂を下りかけ、振り向いて5階の部屋を見上げたら
早紀が窓から手を振っている。
曲がり角まで来て、もう一度振り向くと、やはり手を振っている。
小さく見える彼女をポケットに入れたい、と貴之は強烈に思った。
