恋の小説を書いてみました。
書きながら、一緒に考え、成長できたら・・と。
不定期になりますが、連載したいと思います。
読んでくださった方が、ちょっと甘酸っぱく
ほろ苦く・・・恋について、パートナーシップについて
心に小さな波を感じて下さったら幸いです。
〜 Chocolate Avenue U 〜 ≪ もう一度、 fall in love ≫

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・彼女の章・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
ようやくベッドに入って仕事が離れない頭を休め始めた頃、自宅の電話が鳴った。 私はうすい意識の中で、「どうせ間違い電話・・・」と放っておくことを決めている。 そんな気分を徐々にひっくり返すかのように、ベルの音は次第に大きくなり、これ以上寝かせておかないぞ、と叫んでいる。
「はい。」 おもいきり不機嫌な声でそういうと同時に、
母の切羽詰った声が飛び込んできた。
「何してるの〜すぐに来てぇ!」 悲鳴のような声で怒鳴られた。
「何?どうしたの?」 完璧な目覚めを余儀なくされて、
冷静を促そうとするが、母は聞く耳を持たず
「すぐ来て、すぐきてよぉ・・」と、子供のように繰り返す。
警察に通報しようかと一瞬迷ったが、とりあえず、さっきまで着ていた
服を身につけ、充電器から携帯を外してバックに放り込み、
できる限りの速さで家を飛び出した。
表通りに出てタクシーを拾えば、この時間なら横浜まで30分ほどで行く。
その間、携帯から電話しても出ない・・・いやな予感がよぎる。
6年前に父がなくなってから 母は 気楽な一人暮らしを楽しんでいた。
女性はたくましいと思うのは、父がいないと何にもできないはずの母が、
結構なんでもさっさとこなし、帰りの時間を気にせず出かけられる生活を
それなりに謳歌している。
そんな母に何があったのだろう? 強盗?・・だったら電話できないだろう。
どこか具合が悪い? 取り乱してはいるものの、あの声の力強さは病気と
いう感じではない。
次第に普通じゃない母の声がリフレインして心臓が早鐘のように鳴った。
信号待ちの1分が恐ろしく長い。
落ち着こうと携帯を取り出し、彼に電話・・でも、時計を見て思いとどまる。
3時を少し回っている。
ようやくたどり着きドアを開けようとすると、ドアの鍵は開いている。
・・・中は暗い。
「お母さん?」 震える声で呼びながら廊下の壁伝いに入っていく。
暗闇もこわかったが、電気をつけるのが、もっと、こわかった。
居間に入ると人の気配がする。
思い切って電気をつけると、母がうずくまるようにお座りしている。
「お母さん、どうしたの? 大丈夫?」
母はうつろな目で私を見上げると
「鍵が・・ないの・・」と、独り言のように言った。
「え?鍵? どこの? 事件じゃないのね。 ・・具合は?」
「全部探したのに鍵が無いの。
今日はどこにもでかけてないから、あるはずなのに・・・」
・・・話がまったくかみ合わない。
「何言ってるの? 鍵なくしたくらいで夜中に大騒ぎしたわけ?
いい加減にしてよ。何時だと思ってるの?
遊んでるわけじゃないのよ、私だってめいっぱい仕事してるんだから。
冗談じゃないわよっ。」
母の身の上が無事だったことから来る安堵が、怒りに変わって爆発した。
呆然と私を見ている母の隣で、今度は私が泣き叫んでいた。
暇な母が少しぼけたか・・と思ったけれど、それよりも明日の仕事のことが
心配になり、早く帰って少しでも寝よう・・と、心細げな母を残して、
冷たく「じゃあね」と振り向きもせずに帰宅した。
この後、1年以上も、こんなことの繰り返しになるなんて、
その時は少しも想像しなかった。
けれど、これが母の老人性うつ病の始まりだった。
私は心底疲れ果てた。
仕事でも、マネージャーになってからは、
〔自分が頑張れば成果が上がる〕というわけではなく、
チームで動くことの難しさを痛感させられている。
同じ年の部下というのは、やりにくいことばかりである。
辞めてしまおうかとも思いつめ、そんな状態のマネージャーの下では、
当然、業務にも支障が出始めていた。

それまで挫折らしい挫折を
味わったことがない私にとって、
・・・・人生初めての谷底。
彼がいてくれなかったら、
もしかしたら・・・
・・・「最悪のだめ」に
なっていたかもしれない。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・彼の章・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
彼女は、相当まいっている。
あえて僕からはなにも聞かない。
泣き言を言わないことで、ぎりぎり彼女が立っていられるのなら、
それでもいいと思う。
きっと、一言でも漏らしたら・・今の彼女は崩れてしまうのだろう。
昼間の仕事とお母さんの介護で疲れていないわけが無い。
僕にできることは、彼女が振り向いた時にちゃんと見ていてやれること。
どんなに愛していても代わることはできない彼女サイドの問題もある。
シャワーから戻ると・・・彼女は寝入っていた。
白いブランケットにくるまって、スヤスヤ寝ている姿は、
かわいくて笑ってしまう。
二人でいる時に、安心しきって寝てくれるのは嬉しいものだと、今知った。
少し肩が出ている。
華奢で、キレイなラインだ。
「私のどこが好き?」・・・前にそう聞かれたとき
即座に「目と口元・・」と答えた。
彼女の目は、チカラがあって、白目が少しブルーがかっている。
口元は・・意思が強そうな、笑うと愛嬌のある上品な口。
でも、こうしてみると肩もたまらなく好きだ、と思う。
肩から鎖骨、そして左右の鎖骨が出会う胸元は、誰にも見せたくない。
何の映画だったか、たしか、“イングリッシュページェント”という映画で
人妻に恋した主人公が、同じようなこと言っていたのを思い出す。
「このラインは海峡。僕だけの・・・」と言うような台詞。
そんなことを想いながら、いとおしくて顔を近づける。
少し左を向いて寝ている彼女の顔、
閉じた目のきれいなライン。 長いまつげ。
すると右目の目頭から、左目の目尻から・・・
じわっと透明の液体が滲み出した。
・・・・泣いてる?
彼女の『堰』が切れる時が、やってきた。
それでも彼女はしばらく目を閉じたまま動かずに耐えている。
にじんだ涙が、鼻を伝って、耳を伝って 枕をぬらしていく。
耐え切れなくなったのは僕のほうだった。
「どうしてほしい?」
それだけ言うのが精一杯で、幼い子供をいいこいいこするように
髪をなで、肩を抱いた。
それから、彼女はよろいを捨てた。
お母さんがぼけてひどいことを言うらしい。
はじめのうちは、病気だから、と思えていたのが、
この頃は悪意があるとしか思えないという。
「いっそ死んでくれたら、なんて思った自分が許せなくて情けなくて・・」
と言いながら、時々しゃくりあげるように泣く。
「他に何か言いたいことがあったら全部聴くよ・・」
「半年前に・・・戻りたい・・・。」と彼女は、言った。
「24時間を当たり前に自分のためだけに使えていた半年前に・・・。」
「そうか。今は全然違っちゃったもんな。」
「疲れちゃった・・・」
「そうだよね。」
「全部投げ出してどこかへ行きたくなっちゃう・・・」
「全部?」
「仕事も・・・今・・手に負えてない・・」
今までお母さんの事はともかく、仕事の愚痴はこぼしたことのない彼女。
もともと僕の取引先だった彼女の仕事ぶりは、ちょっと緊張するほど
優秀だと感じていた。
プライドもあるだろうし、努力も怠らない。
今は、お互いに部署が異動して直接関わらなくなったものの、
僕に仕事の悩みを打ち明けることなど、
少し前の彼女なら、あり得なかったことだ。
どうやら、仕事のスキルや努力だけでは乗り越えられない
「人」と言う壁に、ぶち当たってしまったらしい。

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・二人の章・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
全部、だったような、表面だけだったような・・・。
彼に話したことは、何だっただろう。
母の病院に向かいながら、それでも昨日とは足取りが違う自分がいた。
彼は話をゆっくりゆったり聴いてくれて、最後にこう言った。
「ほんとに頑張れない、と思ったら、辞めてもいいんじゃないかな。」
何を?仕事?母のこと?
それが、どういうことであっても、辞める選択、が本当に存在することを
彼に言ってもらって、肩に入りすぎていた力が抜けた。
母の娘であることは辞められないけど、病院に毎日通うことは、
パスしてもいいのかもしれない。
自分に厳しすぎる・・・昔からそうだった。
サボることができない・・・サボろうとするともう一人の自分がささやく。
「ほんとにいいの?」って。
そんな自分にちょっとさよならを言いたくなった。
土曜日の午前10:20
溝口で病院までのバスを待ちながら、彼にメールを打った。
「昨日はありがとう。いつもありがとう。
だけど、夕べは特別にもっとありがとう。
厳しすぎる自分にちょっとさよならします!
これから、母のところに行くね。
優しい気持ちが芽を出した〜(笑)
仕事の宿題は・・・恥ずかしいけど、今は無理。
だからもう少しこのまま。 焦らないでいいよね・・・。」
バスが病院につく頃、返信が来た。
「はい、その通り!
状況は変わらなくても、どんな態度で臨むかは自由だよ!
さぁ、笑って笑って!
(涙は僕だけに見せてください!)
愛しているよ!」
携帯を胸に抱いて雨上がりの空を仰ぎ、彼の言葉をかみしめた。
・・・・だいすき。
そして私はもう一度、彼に恋をした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・To be continued・・・・・・・・